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2022/11/29

退職勧奨に合意した元従業員からの「退職証明書」交付請求

退職勧奨に合意した元従業員からの「退職証明書」交付請求

元従業員とのトラブルを回避するために

 中途で新たに従業員を採用する場合には、その応募者が前職をどのような理由で退職したか気になるところです。そこで、採用にあたり、「退職証明書」の提出を求める会社もあります。
 退職証明書とは、退職者の請求に基づき発行するものです。労働基準法では「労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の酒類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあっては、その事由を含む。)について証明書を請求した場合においては、使用者は遅滞なくこれを交付しなければならない。」(第22条第1項)と定めています。ただし、退職証明書の交付義務は、従業員の退職した日から2年間であり、その期間を経過した従業員からの請求についてまで応じる義務はありません(平11.3.31基発第169号)。
 なお、退職者からの交付請求を拒否したり、理由もなく発行を遅らせたりすると、「労働基準法第22条第1項」の規定に違反したとして、30万円以下の罰金を科せられる(第120条)こともありますので、退職者からの請求があれば、速やかに交付するようにしましょう。
 退職証明書には、前述の労基法22条第1項に基づき、①使用期間(勤続期間)、②業務の種類(どのような仕事をしていたか)、③事業における地位(単に役職名、役付名等)、④賃金(賃金の名称ごとに記載し、1箇月の総額も記載すべきとされるが、この点も退職者の希望に従って記載)、⑤退職の事由(会社を辞めた理由、解雇の場合は解雇の理由)を記載します。ただし、、記載証明をしなければならないのはこれら5項目の中で、証明を求められた事項のみであり、求められていない事項についてまで記入してはなりません。
 なお、退職者の退職事由が解雇であり、解雇理由の証明書を求められた場合には、それに応じなければなりませんが、この場合は「解雇」をめぐり争いになることが多く、その記載内容は「紛争の争点」となるので注意して記載しなければなりません。
 一般に退職勧奨とは、会社の経営上の問題(事業縮小等の人員整理など)や労働者の勤務上または業務遂行上の問題点などについて、退職を前提に話し合いをし、労働者に自らの退職を勧めて、それに合意するか否かを労働者自らが判断するものであり、退職勧奨に合意すれば退職し、拒否することもできます。
 したがって、問題が労働者側にある退職勧奨で、それが強要(退職強要)に至るまでのことはなく、自ら退職した場合の退職事由としては「退職勧奨による合意退職」とまでは記載せず、「自己都合退職」または「合意退職」とするのが一般的でしょう。なお、労働者と使用者との間で労働者の退職の事由について見解の相違がある場合、使用者が自らの見解を証明書に記載し労働者の請求に対し遅滞なく交付すれば、基本的には法第22条第1項違反とはなりませんが、それが虚偽であった場合(使用者がいったん労働者に示した事由と異なる場合等)には、前記と同様に法22条第1項の義務を果たしたことにはならないとされています。
 したがって、退職証明の証明事項に関して、虚偽の内容を記載することは問題ですが、退職者と見解の相違がある場合でも、まずは会社の意向に沿って退職事由を記載しておけば、会社としての交付義務を果たしたということになります。