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2023/05/29

労働者からの急な退職の申し出の対応について

労働者からの急な退職の申し出の対応について

労働者から1週間後の退職の申し出に対し、退職日を延長させることは可能か?

  転職等による雇用の流動化が進んでいる今日、労働者からの突然の退職の申し出はよくあることです。日本国民は、憲法により「奴隷的拘束の禁止」(第18条)および「職業選択の事由」(第22条)が保障されているので、労働者には退職の自由があります。
 また、民法では雇用契約の解除について「当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申し入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申し入れの日から2週間経過することによって終了する」(第627条第1項)と定めており、正社員および無期雇用労働者は、原則として、退職日から2週間前に退職の意思を会社に申し出ることによって退職することが認められています。したがって、1週間後の退職の申し出に対しては、延長の合意がある場合を除き、退職日の延長ができるのは1週間となります。
 ただし、就業規則などで「労働者が退職する場合には退職日の1か月前に申し出ること」と定めている場合があります。これは、引継ぎや補充人員の確保などの時間を考慮して退職の申し出期間を定めているものです。
 このように退職の申出期間を定めること自体は会社の自由です。しかし、退職の申出期間を「6か月前とする」など不当に長く設定することは公序良俗に反して認められず、その定めそのものが無効となることがあります。また、民法と就業規則のどちらが優先されるかという点においては、裁判例でも学説でも解釈が分かれるものの、民法を優先するとされるのが一般的です。したがって就業規則に基づき退職日を強制的に遅らせることは難しいといえます。
 したがって、労働者が退職するとき、業務の引き継ぎをおこなうことは、会社に対する信義則上の義務であるものと考えられます。就業規則に労働者からの退職の申し出は「退職日の1か月前」と定められているのにもかかわらず、何の引き継ぎもせず、退職日まで年次有給休暇を消化して退職することなどは、就業規則に違反し、仕事を放棄したことにもなります。その結果、業務に著しい障がいが発生し、会社の売上に影響が出てしまった場合は就業規則違反となり、懲戒処分の有効および損害賠償が成立する可能性もあります。ただし、その立証責任は使用者側にあるので困難なトラブルになりえる問題のひとつです。
 以上は、正社員などの無期労働契約者の退職に関することですが、突然の退職の申出者が有期労働契約の労働者だった場合には対応が少しことなります。
有期労働契約者は、その契約期間の途中で一方的に契約解除(退職)することができません(民法第628条)。契約期間は使用者と労働者が合意の上で決定したものであり、双方が遵守しなければならないことによるとするものです。ただし、職場環境が劣悪であるとか、家族の介護など契約を途中解約せざるを得ないほどのやむを得ない事由がある場合は除きます。
 なお、有期労働契約で契約期間の初日から1年を経過した場合は、民法第627条第1項に基づき、退職の申し入れをした日から2週間経過すれば前述の「やむを得ない事由」がなくとも退職の自由が認められています(労基法附則第137条)。
 ただし、①建設・土木工事など一定の事業の完了に必要な期間を定めたものであるとき、②社会保険労務士、税理士、弁護士等専門知識を有する労働者との契約であるとき、③60歳以上の高年齢労働者との契約であるときは、この「1年経過後退職の自由」は認められていません。