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2022/01/25

身だしなみに問題のある従業員の取り扱い

身だしなみに一定の制約を求めるのであれば、規定違反が懲戒処分になることを含め、具体的に定めておく。

 労働者が自分の髪形やその色をどうするか、ひげを生やすかなどといったことは、基本的に個人の自由であり、尊重されるべきものです。しかし、それはあくまでも私生活上の場面においてであり、会社が、職場秩序の維持やその労働者の業務に照らして、必要かつ合理的な範囲で一定の制約を課すことはできます。たとえば、飲食業やホテル業などの接客業に従事する従業員がお客様に不快感を与えるような風貌をしていることを個人の自由として放置すれば会社の信用を失うことになりかねず、業績にも多大な影響を及ぼすことにもなります。そのような業種、業務でなくとも、他の従業員に不快感を与える清潔感のない風貌をしている従業員が職場に存在することは職場風土として良いものではありません。
 通常、従業員の服装、髪型などの身だしなみに関する制約に関しては、会社の就業規則の服務規程として定めています。その制約が、必要かつ合理的な範囲と言えるかどうかは、会社の業種、当該従業員の職務の性質・内容、制約の目的、制約の具体的態様、業務への支障の有無、程度などから総合的に判断されます。
 過去の裁判例を見てみると「口ひげは服装、頭髪と同様、もともと個人の趣味・嗜好に属する事柄であり、本来的には各人の自由であるとしつつ、このような私生活上の自由も労働契約の場においては、契約上の規制を受けることもありうるのであり、企業が企業経営の必要上から容姿、口ひげ、服装、頭髪などに関して合理的な規律を定めた場合、従業員はこれに沿った労務提供義務を負うことになる」(イースタン・エアポートモータース事件:東京地裁昭55.12.15)。また、トラック運転手が茶髪を改めるようにとの業務命令に従わなかったために会社が諭旨解雇をした事案で。裁判所は、「企業が労働者の髪の色・型、容姿、服装などについて制限する場合は、企業の円滑な運営上必要かつ合理的な限度にとどまるよう特段の配慮を必要とされる」として解雇は無効とされました(株式会社東谷山家事件:福岡地裁小倉支部・平成9.12.25)。
 これらの裁判例からみると、従業員の身だしなみに関する会社の対応としては、身だしなみに一定の制約を求めるのであれば、その内容を職場秩序の維持に必要な合理的な範囲で具体的に就業規則に定めておくことが必要でしょう。定めるにあたっては、同僚や顧客に不快感を与える異様・奇異な色や形に限定されている解釈されるので、たとえば「身だしなみに(服装、髪型、ひげ等)は、常に清潔感を保ち、他人に不快感を与えないものでること。また、職場の雰囲気にふさわしくない身だしなみは慎むこと」などと定め、違反するような場合には、就業規則に基づき、清潔感のある身だしなみするようにまず注意・指導・改善を求めることが必要です。
 なお、従業員の採用・面接の際、自社の従業員としての身だしなみの服務規定を説明し、違反する風貌が見られるときは、採用された場合にそれをやめることはできるかなど本人の意思を確認しておくことで、後々のトラブル回避につながるはずです。
 また、身だしなみの規定違反は懲戒処分となることも就業規則に定め、、実際の違反者に対して厳正な処分を行うことです。ただし、いきなり「解雇」などの処分はできません。まずは「けん責処分]などにより指導し、改善のない場合はさらに注意を重ねて最終的に解雇もやむを得ない状況となる事実の積み重ねが必要です。