2022/07/05
試用期間中の解雇
試用期間の正しい運用について
新たに労働者をさいようしたものの、採用面接時にその者が業務への適性や職務遂行能力があるか、会社の一員として
他の社員との協調性があるなどを見極めるのは非常に困難です。そこで多くの企業では、採用した労働者の能力・適正・勤務態度などを見極める期間として「試用期間」を設けています。試用期間は、募集時に明示すべき労働条件の一つでもあり、また労働契約書や就業規則にその期間等について定めて労働者に明示しなければなりません。試用期間の長さについては、法的な定めはありませんが、「1年以上の試用期間中の労働者は不安定な地位に置かれるものであるから、労働能力や勤務態度等業務への適性を判断するのに必要な合理的な期間を超える試用期間は公序良俗に反し、その限りにおいて無効とする」との判例(ブラザー工業事件:昭59.3.23、名古屋地裁)もありことから、一般には3カ月から6か月が適正な期間といえます。
試用期間といえども、会社と労働者の労働契約は成立しています。しかし法的には、試用期間を「解約権留保付労働契約」といい、使用者である会社側が採用した労働者を本採用するかどうかを決める権利を持つ期間です。試用期間中に本採用が難しいと判断した場合、その有している解約権を行使して本採用せず解雇により採用した労働者との労働契約を解約することができます。解約が留保されているということは、本採用になった場合より広い範囲において解雇の自由が認められることになります。とはいえ、試用期間中だからといって簡単に解雇できるわけではありません。解雇については客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当として認められる場合でなければ解雇は無効となります。
試用期間は、適正、能力、勤務態度など従業員として適格性を判断するための観察期間であり、指導期間でもあるので、留保されている解約権を行使して解雇するには、適格性判断の具体的な根拠(能力不足、勤務成績・態度の不良)を示す必要があり、その判断の妥当性が問題となります。
したがって、試用期間中の解雇を有効とするには、試用期間中にどのような事由に該当した場合に解雇となるのかを労働契約書や就業規則に明示しておくが重要です。
さらに、試用期間中の解雇理由を能力不足とするには、育成指導や訓練を行ったにもかかわらず、重ねても、正社員として雇用するに足る能力にまで至らない程度に能力が不足していること、意欲がないことなどについての指導記録や従業員本人の成果物で明らかであれば、解雇が有効となる可能性が高くなるといえます。したがって、試用期間中は定期的に面談し、指導内容を記録しておくなどの対応も必要になります。
なお、能力不足であるか否かが引き続き正社員として本採用するまでの能力に至っているかが明らかでない場合は、その試用期間を延長して、その間に本採用するか否か判断することも出来ます。試用期間を延長するにあたっては、就業規則や労働契約書にその定めがある場合を除き、延長の合意を得ておくべきです。また、試用期間を延長するといっても不相当に長期間にすると無効と判断される危険性があります。試用期間を延長する場合には、当初の試用期間に加えて、さらに1か月から3か月が適切でしょう。