2023/04/25
遅刻・早退と残業時間の相殺について
遅刻・早退と残業時間の相殺について
遅刻した社員から残業するので相殺して欲しいとの申し出に対応するべきか?
1日の所定労働時間に対して、1時間遅刻した場合、その遅刻相当分の賃金を控除することは、「ノーワーク・ノーペイの原則」に基づき、何ら問題がありません。
ところが、社員が遅刻した場合に、その遅刻時間相当分を所定の終業時刻を超えて労働することについて、労働者からの申し出または会社からの命により、相殺することができるのかということがあります。
例えば1日の所定労働時間が8時間で、1時間遅刻をした日に、所定労働時刻を超えて1時間残業しても、その日の労働時間は法定労働時間内であるため残業代は発生しません。
労働基準法上、変形労働時間制を採用していない限り、1日の労働時間が8時間を超える場合には法定時間外労働に係る残業代として1時間当たり2割5分以上の割増賃金を支払わなければなりません。この「8時間」とは実労働時間をいうものです。したがって、遅刻した日の遅刻時間相当分について所定の労働時間を超えて労働させても、8時間を超えない限り残業代の支払い義務はないことになります。
早退についても同様のことが言えます。たとえば、所定の終業時刻より1時間早く帰るために、所定の始業時刻より早く出勤して労働する場合も同じように相殺できるということです。
なお、これら遅刻および早退の相殺運用は、それが同じ労働日に限って行われるものであり、遅刻および早退時間に相当する分を他の日に振り替えて運用することはできません。たとえば、1日の所定労働時間が8時間で、1時間分の遅刻または早退を翌日の労働時間に加算して翌日の労働時間を9時間(所定労働時間8時間+遅刻または早退時間分1時間)として相殺し、1時間分を残業扱いせず割増賃金を支払わない、とすることはできません。労働基準法上、1日の労働時間が8時間を超えたら、「日」単位で残業時間を計算する必要があります。したがって、所定労働時間を超えた1時間分については残業代として2割5分以上の割増賃金を支払う義務があります。このように遅刻または早退した時間を調整できるのは同日に限られます。
しかし、遅刻および早退に関して同日調整を可能とすると、勤怠が乱れることにもつながります。したがって就業規則に「会社が認めた場合には、始業時刻に遅刻した時間相当分または終業時刻前に早退した時間相当分を、その日の
終業時刻を超えて、または始業時刻の前に勤務することができる。この場合には所定労働時間労働をしたものとする」などの定めをしておくことでの運用をするべきでしょう。
ところで、前日の所定労働時間を超えて残業させた残業時間分を、翌日に遅刻することまたは早退することを命じて残業代を調整することができるのかということがあります。このような調整は違法となります。
前述のとおり、労働基準法上、1日の労働時間が8時間を超えたら、「日」単位で残業代を計算しなければなりません。したがって、このような調整をすることは残業代の未払いとなります。また、遅刻または早退を会社が命ずることは、その時間について休業を命じたことになり、労働基準法第26条に基づき休業手当に支払いが必要になります。