適正な把握が求められる労働時間管理に備える
労働時間管理を使用者の責務として定めた具体的な法令は在りません。しかし、労働基準法では、法定労働時間、休日、休憩時間、深夜労働に係る時間数といった事項を適正に記入しなければなりません(労基法第108条、則第54条)。
これらの事項を賃金台帳にしていない場合や、故意に虚偽の労働時間数を記入した場合には、30万以下の罰金に処せられます(労基法第120条)。これらを見ても、使用者には、労働時間を適正に把握・管理する責務があることは明らかです。
しかし、現状を見ると、時間外労働に関する不適正な運用にともない、割増賃金の未払いや過重な長時間労働といった問題が生じているなど、会社が労働時間を適正に管理していないことによるトラブルも年々多くなってきています。
トラブルが発生した場合に会社が適正な労働時間の管理をしていないと、従業員に言われるがままに未払い残業として多額の残業代を支払わなくければならないリスクを抱えていることになります。
また従業員の精神障害や脳・心疾患に関しては、労働災害としての認定基準が設けられており、労働時間との因果関係をはかるための基準が定められています。これらの疾患について、その要因が長時間労働による過重労働と認められれば、会社の安全配慮義務違反ということになり、損害賠償を請求されることになります。
厚生労働省では、平成29年1月に「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずるべき措置に関するガイドライン」を公表。会社が行うべき労働時間の把握のための具体的措置を明らかにしています。
このガイドラインは、労働基準法のうち、労働時間に係る規定が適用されるすべての事業場を対象としています。そして、労働基準法第41条に定める者および、みなし労働時間制が適用される労働者(事業場外労働を行う者にあっては、みなし労働時間制が適用される時間に限る)を除くすべての者を対象労働者としています。ただし、適用されない労働者についても健康確保を図る必要があることから、適正な労働時間管理を行う責務があるとされています。