採用時における精神疾患等への対応
精神疾患で医療機関にかかっている患者数は、近年大幅に増加しており、平成29年では400万人を超えています(厚生労働省)。内訳としては多いものから、うつ病、不安障害、統合失調症、認知症などとなっており、近年においては、若年層にうつ病などの著しい増加がみられます。また最近では「コロナ鬱」という言葉まで耳にするようになってきています。
こうした中で、どんな人物を採用するかは会社の裁量ですが、いったん採用してしまうとそう簡単には解雇することができません。人手不足とはいえ、採用にあたっては慎重に取り組まなけれればなりません。既往歴によっては、入社後に再発し就労に重大な影響を及ぼすこともありえます。
労働安全衛生法では、常時使用する労働者を雇い入れた際の「雇入時健康診断」を事業主に義務付けています(労働安全衛生規則第43条)。なお、行政解釈において「雇入時の健康診断は、常時使用する労働者を雇い入れた際における適正配置、入職後の健康管理に資するための健康診断であり、必ずしも採用選考時に実施することを義務付けたものではなく、また応募者の採否を決定するためのものではない」としています(平成5年5月10日付け事務連絡)。したがって法律で義務付けられていない項目の診断を受けさせて応募者の健康情報を収集するなど、就職差別となるような目的での雇入時健康診断を実施することはできません。
また、職業安定法では、就職差別を未然に防止し、公正な採用選考を実施する観点から、求職者・応募者の個人情報については、本人の同意が有る場合やその他正当な理由がある場合を除き、業務の目的の達成に必要な範囲内で収集・保管・使用しなければならないと定めています(第5条の4)。
しかし、採用する側としては、応募者の健康情報を知らないと募集した仕事に就かせることができるのか、また適正配置の判断ができないなどの場合もあります。また精神疾患があれば、再発の危険性もあるので、心理的な負担の多い業務や残業の多い部署への配置は避けなければなりません。既往歴や持病を知らずに採用して就労させた結果、症状が悪化するなどの事態に至った場合には、会社の安全配慮義務違反を問われることにもなりかねません。
そこで、会社の対応としては、応募者に対して採用した場合の業務内容、または配置後の就労実態などを十分に説明した上で、本人の同意を得て、既往歴や持病、服用中の薬などの有無について訊ねるのが良いでしょう。
なお、正当な理由があって収集した応募者の健康情報は、個人情報としてその取扱いには十分な注意が必要です。
他方、労働者の立場にたてば、面接時に自ら既往歴や持病について告知する義務はありません。しかし、採用後の業務に関連して、既往歴や持病等に対して採用担当者から訊ねられた場合に嘘をつくことは虚偽申告となり、後々トラブルに発展する可能性があります。
なお、既往歴や持病を隠蔽または虚偽申告をして採用され、その後発覚した場合に解雇できるかについては、就業規則n規定内容とその病歴詐称が業務遂行にどの程度重大な影響を与えるか、また会社にどれだけの損害を与えたかなどによって判断されることになります。