法改正などの最新情報

2021/10/15

出張に伴う出勤・帰宅に要する時間の取り扱い

出張先と自宅との往復に要する時間は労働時間に含まれない。出張手当などを支給、代休を付与するなどで対応する。

 一般に、出張で遠方に出かける場合などは、出張業務遂行のための往復の移動時間もあり、通常の出勤時刻より早く自宅を出て直行する場合や、出張業務終了時刻によっては帰りも通常の帰宅時間よりも遅くなることもあります。このような場合、移動時間は労働時間とみるべきか否かでトラブルとなることがありえます。
 たとえば、会社の1日の所定労働時間は「始業9時00分、終業18時00分、休憩1時間」の場合で、遠方の出張先に9時00分に到着すべく自宅をいつもの出勤時刻より1時間早く出て、出張先での業務終了は会社の終業時刻18時00分であったため、自宅へ着いたのがいつもより1時間遅くなってしまった。移動に要した時間は通常の通勤時間よりそれぞれ1時間(往復で2時間)多く、この2時間は労働時間として残業となるかという問題です。
 出張に伴う移動時間に関しては、原則として、通常の労働時間と同じように、労働時間には該当しません。この点に関しては、行政解釈において「物品の監視等の特定の用務を使用者から命じられている場合のほかは労働時間として扱う必要はない」(昭23.3.17基発461号等)とされています。裁判例でも「出張の際の往復に要する時間は、労働者が日常の出勤に費やす時間と同一性質であると考えられることから、その所要時間は労働時間に算入されない」(日本工業検査事件・横浜地裁/昭49.1.26)などがあります。したがって、出張に伴う移動時間は、労働者の自由度が高いので、会社からの指示で必要な書類の作成や商品・機材などの運搬をするとか、上司に同行して移動中に打ち合わせを兼ねる場合などを除けば、労働時間には該当せず、移動時間を含めると1日の所定労働時間を超える場合でも、その超えた部分については残業代を支払う必要はないことになります。また出張における業務遂行時間は、労働時間を管理できる上司が同行している場合を除いて、労働時間の算定が困難な場合が多く、事業場外のみなし労働時間制(労働基準法38条の2)を適用して「所定労働時間労働したものとみなす」と就業規則で定めておくのが一般的です。なお、原則として移動時間は労働時間とみなされないため、この「事業場外みなし労働時間」に含めることもできません。したがって拘束時間は長くなることが多い出張業務については、従業員の不満とならないように、距離や時間などの一定の基準を設けて、出張手当などを支給することが望ましい調整方法です。
 また、会社の所定休日に出張先に移動する場合、たとえば、月曜の朝から地方での仕事のために、前日の日曜日に移動するなどです。このような場合は、折角の休日は移動日、休日出勤とはならないのかという問題が生じます。前述のとおり、移動時間に業務に該当するようなこと(書類の作成や商品・機材などの運搬等)がなく、労働者の自由が確保されていれば、労働時間とはみなされず、時間外労働や休日労働となることはありません。
 法律上は、出張に伴う移動時間および移動日については、会社から労働とみなされる特別な指示などがある場合を除き、労働時間ではなく、時間外手当や休日出勤扱いしなくともよいのですが、命じられた従業員は時間的に拘束されるので不満が生じやすいため、出張旅費規程を整備するなどで出張業務について手当や日当などを支給したり、休日移動の場合は代休を与えるなどの措置を講ずるのがよいでしょう。