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2021/11/22

出向元と出向先の所定労働時間が異なる場合

出向に伴う労働条件の対応

 在籍型出向とは、対象社員が出向元企業(以下、出向元)に在籍したまま、出向元と出向先企業(以下、出向先)との間の出向契約によって、出向元と出向先の両方と雇用契約を結び、一定の出向期間継続して勤務することをいいます。
 労働条件を定めた就業規則等の適用に関しては、出向先の指揮命令に基づき労務提供を行いますので、出向元と出向先の出向契約に特段の定めがない限り、就業規則のうち、労務提供に関する部分については出向先の就業規則が適用されます。具体的には、始業・終業時刻、労働時間、休日、安全衛生、災害補償などです。他方、労働契約上の地位に関するものについては、出向元の労働者ですので出向元の就業規則が適用されます。具体的なには、定年、退職金、解雇などについてです。
 出向元と出向先では、労働条件のうち、1日の労働時間や休日数が異なる場合がよくあります。たとえば、出向元では「1日7時間30分、1週5日勤務」、出向先では「1日8時間、1週5日勤務」であれば、出向したことで1日30分の残業になります。また、出向先の年間所定休日数が少ない場合は休日出勤が発生することになります。
 このような場合には、1日の所定労働時間について、出向先は出向元より30分長い分を所定労働時間として、出向元の賃金規程に基づき残業手当を支払うことが必要となる場合もあります。労働基準法上は、1日について8時間を超える部分については2割5分以上の割増率での割増賃金を支払う義務があります。したがって、今回のように7時間30分を超え8時間までの30分は所定外労働時間となり、通常の賃金の30分相当額を支払うことで足ります。しかし、出向元が所定労働時間(7時間30分)を超える労働に関して法定の割増率で支払うことを定めている場合は、それによることになります。また、出向元と出向先の所定休日数に差があり、出向先の休日数が少ない場合には、その差を休日出勤とみなし、出向元の賃金規程に基づいて休日出勤手当を支払うべきでしょう。この点について裁判例では、「出向元としては不利益を解消するだけの条件を示すべきであり、掛かる条件を提示することもなく、本人の同意を無視して行った出向命令は、その効力を生じ得ない」(神鋼電機事件、津地決昭46.5.7)としています。つまり、出向手当のような何らかの形で不利益を解消する必要があるということになります。
 ところで、出向元が出向先に比べて所定労働時間が長い場合や所定休日数が少ない場合もあります。このような場合、出向者の賃金を減額してよいかという問題が出てきます。しかし出向は出向元事業主の業務命令として行われるものです。したがって、所定労働時間の短い分または休日が多い分について、相当額を安易に減額してはなりません。出向先の所定労働時間の短さや所定休日数が多いことは、出向者の都合によるものではないので、所定労働時間の減少および所定休日の増加は、事業主の責めに帰す休業と解することもできます。仮に減額するとしても、労基法第26条に基づく使用者の責めに帰すべき事由による休業として、平均賃金の100分の60以上の休業手当を支払わなければならないことにもなります。したがって、労働時間の減少分および休日数の増加について減額するような措置を講ずることは避けるべきでしょう。